流木師のつぶやき

流木が語りかける声

2014年06月03日

海岸には多くの木が流れ着きます。
それは近くの山から流れてきた木々であり、遥か南国の小さな島から、気の遠くなる時間をかけて流れ着いた木々かもしれません。
木々は長い時間のなかで枝を折られ、激しい波に洗われて、生きていた時の姿からは想像もつかないきれいな素肌を私たちに晒してくれます。
私たちは、変わり果てた木たちの断片からその生前の姿を想像し、人間の寿命を遥かに超える長い長い時を生きた記憶を呼び起こすことができます。
生きた証としての年輪、外界との境を失った硬い木肌。
それらを見ていると、木が私たちに語りかける声が聞こえてくるのです。
「私たちを忘れないで」と。

私はその声に応えなければなりません。
朽ち果てて、土に還る運命から木々を救い出さなければならないのです。

こうして私は、木々のささやきに導かれるように流木師となったのです。

きれいな海岸にも木々は流れ着きます。
人を寄せ付けない断崖の下、人目も及ばない荒れた岩場、隣国や山々から打ち寄せられたゴミの山。
その中に眠る流木たち。
私は彼らに新しい命を吹き込むことができるでしょうか。
生きた証を人々の目に甦らせる事ができるでしょうか・・